「先住民」と「先住民族」問題を詳しく見てみる

格闘娘のLVが2000越えて心も落ち着いたんでこっちに回答してみるよ!


id:andalusiaid:buyobuyoへの反論の大意

  • 政府は、民族自決権を一部の人に認めることには消極的である
  • このため、国連の定義では民族自決権を認めることになる、アイヌの人々は「先住民族」であるとの認定は行っていない
  • ただし、アイヌの人々が先住していたという歴史的事実は認めている。(これは、政府が「先住民」と認めている事と同一である)よって、政府がアイヌを「先住民」ときっぱり認めていないというid:buyobuyoの論は誤りである


ダイアリーでのid:buyobuyoの反論

  • 新聞記事では、「先住民」と「先住民族」両方とも政府が認めていないと記載されている。(新聞記事に記載されている事が、この論理が正しいことの根拠である)よって、「先住民」と「先住民族」両方とも政府は認めていない。
  • また、「先住民族」は民族自決権を持つ民族という定義をされないこともある。よって、id:andalusiaの反論は誤りである。
  • 日本政府の見解は「先住性を持った少数民族であり、これは「先住民」と「先住民族」とも異なる。(この根拠として、以下の引用文に「政府はアイヌを『先住民』と認めていない」と記載されている)


カッコが「記載されていない」論拠を俺が補ったもの。


id:buyobuyoの反論なんだけど、まず一つ目の新聞について。
これは、「新聞に同じように書いてある、だから正しい」というロジックであって、「何故、そういえるのか」という根拠については新聞もid:buyobuyoも記載していない。
ここでは「アイヌを先住民と政府が認めていない」根拠自体が問題であって、その肝心の部分が新聞に書かれていない訳だから、根拠の証明を「新聞がそのまま書いているから正しい」と丸投げしているのは筋が悪い感じがする。
また、これは、一歩間違えると
「『政府は先住民と認めていない』と書いてあるから『政府は先住民と認めていない』んだ!」
というトートロジーに近い論理に陥る危険性がある。


二つ目の文章なんだけど、これはid:buyobuyoの引用した部分の下に以下のように書いてある。

それに対して、「フル装備先住民族」とは、自決権を含むもので、国連宣言で大きくもめているのはこの部分だ。
日本政府もアイヌ先住民族として認めない理由として「フル装備型」を意識してのこと。
先住民族の権利というとき、人によって「選択」型と「フル装備」型との考え方のずれを明らかにしていくことが必要だろう、と常本さんは課題を提示されました。
http://pub.ne.jp/ORORON/?daily_id=20070306より

要は、国連宣言では、「先住民族」という言葉は「自決権を含むもの」として扱われると言う事。
国連で「『先住民族』ってのは自決権を持ってる民族を指す言葉なんだよ!」といっちゃったばかりに揉めているわけ。
だから、その国連宣言を前提にしているid:andalusiaへの反論としてはこれもズレている気がする。


三つ目の引用文の前後。

日本におけるアイヌの人々の法的な立場を考える際には、「先住性」と「先住権」っていう問題もある。日本政府は、アイヌを「先住性」という(あいまいな)ものを持った固有な文化を持った少数民族として認識しているんだけど*1、「先住権」(民族自決権を含む概念)は認めていない。日本政府の見解は、「先住性を持った少数民族」という考え方で、「先住民」でも「先住民族」でもないと言うもののようだ。

アイヌ文化振興法とか「アイヌ新法」と略称される「アイヌ文化の振興並びにアイヌの伝統等に関する知識の普及及び啓発に関する法律」は1997年5月8日に成立し、アイヌ民族を旧土人と呼んでいた「旧土人保護法」は廃止された。この法律が国会で可決されるさいに採択された附帯決議において「アイヌの人々の『先住性』は、歴史的事実」であるとされたが、この法律そのもののなかではアイヌ民族少数民族とされ先住民とは位置づけられていない。

※強調はid:buyobuyoによる。

http://www.ashir.net/siis/toukou/ainu_24.html

ここでは、政府が「先住民」と認めていない根拠として引用文を用いている。
問題は、そもそもこの引用文での「先住民」の定義が、id:buyobuyo及びid:andalusiaの指す「先住民」と同じかわからない点。
そもそも同一文章の全文からは「先住民族」という言葉が見つからないので、「先住民」と「先住民族」の違いもここからは導き出せない。


すれ違いの元は、両者の「先住民」という定義が異なっている事。
これはid:andalusiaの側にも言えるんだけど、前提となる言葉の定義そのものが異なっているんだから、そこを明確にしてから議論をすすめるべきだったんじゃないか。
(この定義の混同を避けるため、厳密さを求められる仕様書では最初に(周知されている言葉であっても)言葉の定義を必ず記載する)
両者の根拠とする資料も、「場」が異なるから、結局これらの資料から「先住民」と言う言葉を再定義できない。


そもそもとして、政府は「アイヌ先住民族ではない」ときっぱり明言している訳ではなく、「先住民族と言う言葉が定義されてないから、アイヌがそれに当たるかどうかわからない」という言い方なんだから、id:buyobuyo元記事のタイトルはやはり煽りすぎだと思う。
むしろ、「何故政府は「先住民族」という定義を不明確にしておくのか」という点を叩いたほうが筋が良かったんじゃないかと。
(実際、福島みずほ議員がこの点について質問を行っている。ただ、質問の焦点が合っていなくて、政府の回答もズレた回答になっている気がするけど)
耳目を集めやすい煽り成分は議論へのノイズにしかならないですよ。