素人を納得させられる専門家は神か邪神のどちらかです

はてなブックマーク - 「知らないことに関しては調べてから言いましょう」がなぜか「だまってろ」に変換される問題 - ARTIFACT@はてブロ
上記ブクマコメで「専門家は素人にわかりやすく教えるべき」みたいな話が結構上がってて盛大にもにょる。
普通の専門家は素人にわかりやすく教えられません。特にWWWでは。

人数の非対称性

ブログで専門家が記事を書く場合、送り手は一人だが、受け手は膨大な数になる。
そして、理解できる知識量を持つ人が多いとは限らない。
また、受け手の99%が理解できたとしても、一人が理解できなければ、その人にとって「専門家は俺、つまり素人にわかりやすく教えてくれない」という状況は変わらない。
これが学校なら「理解している人・していない人の割合」が見えやすいため、理解出来ない側も少数派であることを認識しやすいが、Web上ではこの人数比は可視化されづらい。
よって、理解出来ない人は何の気兼ねもなく「わかりやすく教えろ」コールを繰り返す事になる。
以前あったぱど厨問題を参考にするとわかりやすいかも。

理解力のしきい値問題

理解力のレベルは上から下までばらつくため、「わかりやすく教える」という行為には限度がある。
結局どこかに「最低限ここまでの知識が無いと理解できない」というラインを引かざるを得ない。
しかし、そのラインから漏れた人間には結局理解出来ないから、その人は「専門家は素人にわかりやすく教えろ!」と言い続ける。
そして、理解力とネット上の声の大きさは相関がない。
これは技術系MLでよく火種になってる。

受け手が理解したいと思わない

多くの受け手にとって、理論というのは持論の補強手段の一つでしかない。
受け手が欲するのは「自分に都合のいい理論」であって、「自分に都合の悪い理論」は内容の是非によらず受け取りたくない。
でも、それを表立って表現する訳には行かないため、この理論を拒否する一つの手段として「私にはわからない。わかりやすく教えないお前はダメだ」という台詞が使われる事がある。
疑似科学方面でよく見かける光景。

「わかりやすく教えること」の弊害

わかりやすく教えるというため、送り手は情報の抽象度を上げる事が多い。
しかし、問題そのものに対する粒度をずらせば、問題の本質から遠ざかる事になる。
複雑な問題を簡単にするというのは、問題そのものを曖昧にするのと同じ事な訳だから、受け手が「理解しているように見えて実は理解していない」という、「理解していない」状況より一段悪い状況に悪化する事もある。
この状況に顧客が嵌って地獄を見た技術屋は少なくないはず。

「理解させる」事が目的ではない状況

ここからはちょっと生臭いし、非生産的な話になるが、揉め事戦略上、相手に物事を理解させるというのは手段の一つであって、必ずしも目的とはならない。
観客を味方につける事を目的とするなら、「正しいが複雑で理解しづらい内容」よりも「間違ってるがわかりやすい内容」の方が重宝されることすらある。
この本末転倒は政治やマスコミなどの「耳目を集める事が目的」な商売では良く見かける。



「専門家が素人を煙に巻くためわざと難しい話をする」と言う例もあるから一概には言えないし、専門家もわかりやすく説明する努力は怠るべきではないとは思うけど、情報を正しく理解するにはそれなりのリソースが必要である事を受け手も理解して欲しいのが技術屋の本音です。
あと、長年ヲチをやってきたダメ人間の経験から言うと、絶対納得させられない人間もいるよ!


ちなみに他人を説得する事の難しさ知りたいなら人狼BBSをプレイする事をお勧め。
説得という作業がどれだけ困難かというのがよくわかります。
ついでに揉め事の基本構造も理解できるかも。
個人的には人狼はネットリテラシの教材として最高峰だと思ってる。プレイするのに必要なリソースが大きいのが玉に瑕ですが。


追記:
これだけ書いておいて何ですが、元の揉め事はまだ追ってません。左右ネタの話は背景が複雑で読み解くのが大変なんだよなあ。わかりやすく書け!(ループ)


参考URL
http://d.hatena.ne.jp/yukatti/20040616#p1
ぱど厨ネタに搦めて、ネットの非対称性が当事者には見えてない話。
「解読不能は数学的に証明済み」、RSAを超える新暗号方式とは − @IT
わかりやすく教えようと抽象化しすぎて結局何もわからない例。
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id:shibata616にこの手の話を書かせると輝きすぎる。